和歌と俳句

大宰府

信あれば是も飛梅の奇特かな 貞徳

山吹や葉に花に葉に花に葉に 太祇

反橋の小さく見ゆる芙蓉哉 漱石

や鳥居の内の旅籠町 月二郎

千年の礎を吹く青嵐 亜浪

旅人も礎石も雪も降り昏るる しづの女

大宰府の畦道潰えきんぽうげ 青邨

都府楼

都府楼の瓦硯洗ふや春の水 漱石

立つや礎残る事五十 漱石

天の川の下に天智天皇と臣虚子と 虚子

かがみ折る野菊つゆけし都府楼址 久女

山上憶良ぞ棲みし蓬萌ゆ しづの女

蓬萌ゆ憶良旅人に亦吾に しづの女

蓬摘む古址の詩を恋ひ人を恋ひ しづの女

万葉の男摘みけむ蓬萌ゆ しづの女

茅萌え芝青み礎石にかしづける しづの女

茅に膝し巨き礎石の襞に触る しづの女

都府楼趾菜殻焼く灰降ることよ 茅舎

都府楼趾淋しき冬の雨が降る 立子

都府楼趾より遠足子がやがやと 朱鳥

風悲し枯草ふれて礎石鳴る 朱鳥

吹き降りに薊咲く野ぞかたむける 秋櫻子

薊咲き幾とせの色草にしむ 秋櫻子

草枯の礎石百官卿相を 虚子

夏野来て都府楼礎石ただちなる 爽雨

ただようてあまた礎石と汗人と 爽雨

観世音寺

古りけりな道風の額秋の風 漱石

蕎麦白き道すがらなり観音寺 碧梧桐

秋の灯に照らし出す仏皆観世音 虚子

鐘や響かん昼風の虻うなり 亜浪

白秋
麦の秋夕かぐはしき山の手に観世音寺の講堂は見ゆ

白秋
麦の秋観世音寺を罷で来て都府楼の跡は遠からなくに

露の夜の仏に不意に蝋燭火 禅寺洞

ささげもつみそなはせ観世音 久女

菊の香のくらき仏に灯を献ず 久女

月光にこだます鐘をつきにけり 久女

菜殻火は観世音寺を焼かざるや 茅舎

菜殻火の襲へる観世音寺かな 茅舎

淡し観世音寺の木にかかり 青邨

五菩薩のみな観世音若葉冷 青邨

田掻牛観世音寺の鐘を聞く 青邨

遠目にも観世音寺の時雨れをる 立子

田掻牛観世音寺の前を曳く 秋櫻子

新緑の映るにあらず鐘蒼し 秋櫻子

水仙に手相をたれて観世音 朱鳥

歯朶たけて塔の心礎をかくさざる 風生