山口青邨
垣結ひて賎のをだまき咲きにけり
山吹にすこしの風もなく暮れぬ
貧乏な寺を菩提寺八重桜
藤わたり仁王の棟の朱剥げたり
藤かかり立たせ給へる観世音
藤淡し観世音寺の木にかかり
てのひらに藤房一つ花こぼす
水を守ることのたふとさつつじ緋に
白梅を怒涛と見れば日暮れたり
時計塔霞みつつ針濃ゆく指す
摘草の手を洗ふなりうち揃ひ
舞姫はリラの花よりも濃くにほふ
草の芽ははや八千種の情あり
啓蟄の蚯蚓の紅のすきとほる
墓一塊土筆長けなばかくれなむ
紅顔の人等つどへり実朝忌
たんぽぽの港々や初航船
春の雲いま磔像を舁きのぼる
ローソクは灯さず長し春の寺
殉教図春日燦と射せば見えず
春の闇罩めあしたまで扉をとざす