和歌と俳句

山口青邨

石楠の谷ありいまだ雪をしき

難破船春の潮うつ礁べに

難破船鴎とまらせうららか

梅一輪紺青の海に描き思ふ

猫柳日輪にふれ膨らめる

残る雪ふたとこみとこ踏みて訪ふ

黒き帯しめて紅梅の下にあり

春立つと拭ふ地球儀みづいろに

は近く妻もしづか吾もしづか

人の子の卒業論文わが閲す

卒業にわれ父の如くにも老いし

卒業子頤にひげもち恩を謝す

桜餅われうつくしき友をもち

あくまでも紅うすきこそ桜もち

初蝶の燦爛としてやすらへり

初蝶の紋ぞ仏の燦爛を

かがやきて田螺の水は田の沖へ

春雨は街のともしびに情あり

親子してかがむ蒲公英庭にあり

木瓜の朱いづこにかあり書を読む

わが書屋落花一片づつ降れり

風にゆれ怒涛の如き花一朶

夜は深くのかぶさる軒端かな

花冷の火鉢にさして妻が鏝

花衣うつくしき人は美しく