和歌と俳句

水原秋櫻子

吹き降りに薊咲く野ぞかたむける

薊咲き幾とせの色草にしむ

麦熟るゝ日や天草に雲浮び

アマリリス防波堤潮あをし

野あやめの離れては濃く群れて淡し

時鳥まろき灯影の廊に落つ

明易き温泉にをりはしる山の雨

雲騰り噴煙しづむ松の花

マリア観音面輪愁ひて枇杷青し

古しもの光放てり薔薇咲く日

麦秋の中なるが悲し聖廃墟

堂崩れ麦秋の天藍ただよふ

天使像くだけて初夏の蝶群れをり

鐘楼落ち麦秋に鐘を残しける

潮汚れ薄暑の漁船群れて泊す

午後の日の暈に僧院罌粟咲けり

薔薇喰ふ虫聖母見たまふ高きより

懺悔台初夏の外光黄なりけり

薄暑の日五彩あやしく壁にゆらぐ

聖祭壇明易き弥撤の燭のこる

燭さはに聖母の花のアマリリス

画には見し家ぞと見やる花葵

船の笛鳴りて片影の坂なりけり

鴨脚草この井湧きにし日をおもふ

薫風やけぶりて見えぬ海地獄