久遠寺の夜をさしまねく雪の鐘
雪の果征旅の二兒は記憶のみ
初霜や人馬に消ゆる谷の径
亡き母に子に極寒の香けむり
高台に林梢遠み年新た
月夜にてわが影仄か飾りの扉
山中の雪の玉屋かがみ餅
歳々や湯気になごみて竈飾り
善鄰の意にかかはらず手鞠唄
冴返る深山住ひの四方の色
桟道の蘭に斜陽や雪のこる
春の虹世紀のゆめのかなたにて
砲音の樹海をわたる雪解富士
山川の傍の春耕日もすがら
夜の野路人とまぎらふ春嵐
空を索てすゑひろがりに春の川
深山の春めくいろに月の雲
春の城街に浮浪はゆるされず
春の霜日りんにみるおもてうら
風光る喬樹のそよぎ一枝づつ
一つ温泉に四方の白雲山ざくら
聖鐘にカラタチ夜情花ほのか
花咲きて照り葉のかすむ紅椿
山寺をちかみの藪の紅つばき
竹山に花ざかりなる紅椿
濤ごゑも鴎も河口の春暮るる