和歌と俳句

飯田蛇笏

白嶽

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うなだれて曠野の風にの旅

東風の陽の吹かれゆがみて見ゆるかな

春耕の鞭に月まひ風ふけり

東風の月祷りの鐘もならざりき

鉱山町ねしづむ旅舎のおぼろかな

おぼろの夜門守る露人口笛す

冴返るキタイスカヤの甃

サポールの天にかかりて柳絮とぶ

凍解の墓前にともる永久の燭

供華売りに日影あまねく楡の東風

墓所をでて街ひと筋にうす霞む

石獣のほとりの草の萌えそむる

巣にひそむ春さきがけの鵲を見ぬ

鵲むれてかすまぬ春の大古塔

旅舎の窗遅月さしてリラの花

古都の夜は旅舎冴返り月かくる

ながしめす駱駝に旅の遅日光

駱駝ゑみ驢が小跳ねして暮れ遅き

鵲は巣に馬耕の墓べ草萌ゆる

時計舗の犬懶惰にて楡の東風

おほぎやうに牡丹嗅ぐ娘の軽羅かな

戦跡の風雨に咲きてリラ白し

三日月は砂丘にリラの花あかり

行く春の船に雨迅き萬壽山

盧溝橋遅日の駱駝うち連るる

韃靼は海もりあがりの旅

白鴎に春の潮渦出ては消ゆ

あるときは春潮の鴎真一文字

かもめとぶ春の砂丘に海の紺

春鴎に水玉濤をはしりけり

旅終へてまた雲にすむ暮春かな

日は宙に春の天壇ねむるさま

おほみそら瑠璃南無南無と年新た

しぬばかりよきゆめをみてはつかがみ

大富士のすそ野の新墾鍬はじめ

葉牡丹に年立つあられ降りやみぬ

繭玉の鏡にひびく光りあり

しめかざりして谷とほき瀑の神

観潮の娘が手甲も春の旅

野火の雨切株はやくぬれにけり

野火煙り匐ひ消ゆる水せせらげり

小野をゆく靴になじみて青き踏む

軍鶏籠にながるる蕗の穂絮かな

雪解風禽は古巣をかへりみず

禽は地をあさりて瑞枝東風吹けり

春嶺とほき奥のけむりをわびにけり

高原のみちゆく母子雲雀啼く

生ふうね土温くく踏まれけり

風に映え泉におそき山ざくら

たかんなや山草しげきかなたにも