和歌と俳句

原 石鼎

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深山とつくづくおもふ春の星

春星をくぐりて入りし扉かな

三階の一間の窓や春の星

見ゆるもの皆ほのがくれ荘うらら

大自在地炉に垂れ居る緋桃

けふの日の緋桃の明日を想ひつつ

いつの間に湾へ入りゐて霞む旅

甲板よりみな陸を見るかな

大嶺の雪静なる根芹かな

芹の田や踏みくだきある薄氷

積み積みてひしげし束の根芹かな

いちさきに木瓜に蕾の一つかな

木瓜といふ木は這ふ性をもち蕾みけり

下の屋根濡れ光りつつ花の雨

花の雨夕べちかく霽れにけり

花の雨あがりて花をそこなはず

晴れかけて炊煙こめぬ花の雨

花の雨夕べ鏤ばむ松の露

たたなづくげに青垣や巣鳥啼く

恋しさは鳥栖山の小鳥の巣

茅が崎は小松にちりて巣鳥なく

一羽来しがすぐに去りたる巣鳥かな

赤松の巣にほろほろと真鶸かな

らちもなくぶらさがりゐる古巣かな

深山鳥木が高ければ巣も高し

鳥巣掌に天のたくみをたたへけり

小鳥巣に順日きざむ朝に夕に

懐ろに 鳥の巣秘めて阿呆かな

春光やここにつどへる三五人

春光や空紺碧の窓の外