高野素十
山宿や藤のこぼるる裏庇
見事なる藤を背負ひて杣下山
小でまりの一花づつを賀の膳に
ある寺の障子ほそめに花御堂
僧とゐてまのあたりなり花御堂
傘さして花の御堂の軒やどり
夜桜の一枝長き水の上
夜桜や篝の煙ほそぼそと
夜桜やここより見えぬ東山
花莚しくや落花の吹き過ぎし
競漕の雨となりけり桜餅
花冷の闇にあらはれ篝守
冴返る二三日あり沈丁花
鎌倉の月まんまるし沈丁花
日おもてに咲いてよごれぬ沈丁花
犬が来て猫かけのぼる花杏
献木のよくつき馬酔木花を垂れ
ひまはりの双葉ぞくぞく日に向ひ
猫柳四五歩離れて暮れてをり
苗代に落ち一塊の畦の土
小鳥の巣二本の枝にしつかりと