夏山に向ひて歩く庭の内
夏山も歩み近づく如くなり
屋根の上に人の声する夏炉かな
夏藤のこぼれて籘椅子朝のまま
籬より見えて咲きたる牡丹かな
ひるがへる葉に沈みたる牡丹かな
夜の色に沈みゆくなり大牡丹
土くれに蜥蜴あそべる牡丹かな
ひなげしの花びらを吹きかむりたる
くも糸をわたり返して葉のさきに
くもの糸一すぢよぎる百合の前
まひまひの小さき渦巻月のそば
ひつぱれる糸まつすぐや甲虫
糸足にからまり溜り甲虫
門涼みかかる夜更けに旅の人
朝涼し山川の水少し減り
杖ついて右見左見門涼み
抱く子に顔叩かれて婆涼し
羅にほそぼそと身をつつみたる
虹の輪や一人二人は石を投げ
花一つ持ちて枯れゐる茄子かな
人影の近づき来る帚草
草のとを立出づるより道をしへ
芍薬や土這へる蜂風の蜂
虫干の青き袖口たたまれし