和歌と俳句

高野素十

顔あげてからかはれをり蓮根掘

仔馬ひく橇をみんなが振り返る

娘等やそれぞれのひく空の橇

橇をひく犬立ち止まり主見る

藤棚も枯山吹も剪みあり

前山に替へし障子を閉しけり

雪つみて小さき墓の並びをり

柊の花一本の香かな

寒肥や花の少き枇杷の木に

蔵廂今年の雪にかく撓み

雪折の松のきれ蔓吹き離れ

雪山の前の煙の動かざる

枯蔓に雪柔かにひつかかり

いろいろの面を被る子雪に立つ

凍鶴のやをら片足下しけり

凍鶴のひつかかりゐる枯木かな

紅葉ちる常寂光寺よき日和

箒さき吹き返さるる落葉かな

落葉道みづうみ見えて下りかな

落葉ふむ分れし道のまた会へり

蹴ちらせば霜あらはるる落葉かな

街路樹の夜も落葉をいそぐなり

砲音のゆるがす土や麦を蒔く

冬の蜂おさへ掃きたる箒かな

虻よりも大きな冬の蠅ゐたる