和歌と俳句

高野素十

蓮の花とらんと向けし舳かな

畦近く蓮の巻葉や源五郎

睡蓮の浮葉漸く多きかな

青芒人立つ墓のありにけり

揚羽蝶おいらん草にぶら下る

蝶歩く百日草の花の上

竃また夕立風に燃えいでし

虫干や恩賜の袈裟は真新し

干してあるところに並べ菅を干す

御仏に忘れてありし汗拭ひ

子の中の愛憎淋し天瓜粉

門を出て仙人掌の花見にゆける

金亀子胡瓜の花を半分に

水馬流るる黄楊の花を追う

くつきりと真紅のばらに葉かげかな

電車待つ垣根の薔薇今朝は雨

花菖蒲ゆれかはし風去りにけり

つみとれば鈴蘭の葉もやはらかし

窓の下かやつり草の花もあり

たべ飽きてとんとん歩く鴉の子

蟲篝さかんに燃えて終りけり

青桐の向ふの家の煙出し

朝顔の双葉のどこか濡れゐたる

露けさや月のうつれる革布団

打水や萩より落ちし子かまきり