和歌と俳句

高野素十

渓流の上におおきな夏木かげ

太りしと見上げ夏木の幹叩く

夏草に葺きかはりをり鴨番屋

あらはれて流るる蕗の広葉かな

麦を打つ頃あり母はなつかしき

人をらぬ園の薔薇の散りくづれ

朴の花暫くありて風渡る

冬青の花こぼるる日なり更衣

客ありて堀の小提灯

菖蒲葺く庇つづきの湯殿にも

菖蒲葺く庇の下を通ひ舟

芍薬の赤き花辮白き蕋

今年竹立ち並びたる閑居かな

蟻地獄松風を聞くばかりなり

浮巣ありて大きな蓮の朽葉垂れ

緑蔭や鞄を置いて編物す

早苗束二つ投げられ受けとれず

早苗饗や髪撫でつけし日焼妻

いつまでも一つ郭公早苗取

落ちてゐる早苗束にも風が吹く

早乙女の夕べの水にちらばりて

早乙女や手甲をかるく手を伸べて

誘蛾灯もゆる畦木のあひだかな

小波立ちてうれしき植田かな

明るさの田植の足を洗ふなる