和歌と俳句

高野素十

田植女の手にひらひらと鮒あたり

岩がくれ草刈舟の棹せる

萱草の葉に一とすぢの黄いろかな

日もすがら唄を歌へり雨季に入る

枝かへてまださくらんぼ食べてをる

笊をさげてぽんぽん橋を馳け

河骨にとどめし舟の吹かれ寄る

やや遅れ出てゆく母や田草取

飼馴れて河鹿の声も澄みにけり

母に強く犬に弱しや裸の子

杜若蕗の中なる山家かな

蛇籠より蛇籠へ渡り灸花

夜光虫尚漕ぎ戻る船のあり

水打つて暮れゐる街に帰省かな

ついてゆく揚羽蝶あり撒水車

空蝉やひるがへる葉にとりついて

松蝉や二つ三つづつとりついて

雨晴れてちりぢりにある金魚かな

塵とりて凌霄の花と塵すこし

軒端よりとび出づ雀雲の峰

清水のむかたはら地図を拡げをり

波ゆきて波ゆきて寄る海月かな

月見草つぼみのさきに花粉かな

み仏の前に二輪や月見草

とぶ虻に花粉の糸や月見草