和歌と俳句

高野素十

岩すべる水にうつぶす椿かな

人仰ぐ我家の椿仰ぎけり

道ばたに早蕨売るや御室道

一堂のあれば一塔百千鳥

田打鍬一人洗ふや一人待ち

田打蓑きて御手洗に口すすぐ

額の芽のめだちて青む二つ三つ

歩み来て芽立ちし額に足とどむ

おほばこの芽や大小の葉三つ

甘草の芽のとびとびのひとならび

芽をふいて低きところの一枝かな

邪魔なりし桑の一枝も芽をふける

ひざまづきの中に摘みにけり

卵置く三色菫の花の中

親牛も仔牛もつけしげんげの荷

わが影に角さし出して田螺ゆく

初蝶に物干竿の一文字

春菊の大きな花は黄が褪めし

とぶや郵便函もさしのぞく

庭に立つ母に明るき蝶の空

門内の茶摘畠を顧みし

門を出て大廻りして苗代

種蒔の一人一人の五六人