カメラもたぬ花人とてはなかりけり
玉子焼それも厚焼花ぐもり
春陰や三萬五千石最中
くもり来しひかりのなかの薊かな
ゆふかぜにゆるるをさなき薊かな
ゆく春や雀かくるる樋の中
ゆく春や杖突峠なほ上り
粉ぐすりもうぐひすいろの二月かな
火の塵を十能こぼす二月かな
旧正やトーマスグレー墓畔吟
雪解風連翹黄を發しけり
鳩下りて来てむらがれる雪解かな
酒やめて酒の功徳の餘寒かな
このあたり維新のころの寺餘寒
ゼラニュームひそむ餘寒のつぼみかな
波除けの目よりもたかし春しぐれ
まぼろしに巴里こそみゆれ春しぐれ
猫柳酒あっさりと止められし
三月や風ふきおこる夜半の音
三月や月をわすれし木々の枝
三月や朝より鯛をのせし舌
日々に病人づくや雁帰る
すぐかたくなりし彼岸の団子かな
春泥にほつりとおちし灯影かな
蘆の芽に風おとづるるひかりかな