和歌と俳句

久保田万太郎

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羊羹を切る包丁の刃の餘寒

春雷やたどりつきたる京の宿

辛うじて芽やなぎ水にとどきけり

水すでにあぶらのごときかな

われとわが影とたたずむ春日かな

東京の春昼かかるときしもや

春の夜や背にまはりたる胃の痛み

銀座の灯遠みゆればのおぼろかな

花どきの海のしばしば荒れにけり

鎌倉に風の荒るる日櫻草

三日みぬ間の人の死や櫻草

けふもまたなまじ天気のあざみかな

志度寺へ三里とききしあざみかな

ゆく春やささやきかはす杖と笠

残雪にうもれてふるきみやこかな

また一つ辻をちがへぬ春しぐれ

麩屋町は扇店町よ春しぐれ

雨やますしばしがほどや雛の宿

”どん底”の唄三月の雪ふれり

泣蟲の杉村春子春の雪

泣きはらしたる目に春の雪ふるや

あたたかや人のねたみと聞きながし

春雨や一生庵の割子蕎麦

かげろふやおさへきりたる憤り

蒲公英黄むかしはむかしいまはいま