しばらくはあられふりやむ楢林
寒の内まくらのにほひほのかなる
浅草の寒晴るるよるの空あはれ
肩蒲団ねむる容色おとろへぬ
河竹の身に韓紅の肩蒲団
積雪に古典を愛し煖爐焚く
秋うつり寒去る阜の墳土かな
寒中や柴の蟲繭あさみどり
藪の木に暁月しらみ木菟の冬
落葉なき合歓の下霜とけやらぬ
寒を盈つ月金剛のみどりかな
千代田城げに太極の冬日かな
茶房昼餐祈祷歌冬のこだませり
古風なる茶房の爐竃聖燭す
月ぬれて美術の秋は椎がくり
青霧の葬花をぬらす銀座裏
燈海に天は昏らみて歳の市
浅草は地の金泥に寒夜かな
寒日和シネマの深空見て飽かず
青服の娘に極寒の昴みゆ
浅草や朝けに弥陀の龕燈る
写真師のたつきひそかに花八つ手
ひめむかふ王子に蚊帳のあをがすみ
聖鐘にやすらひの窓茄子さけり
柳絮をふ家禽に空は夕焼けぬ
早乙女の小鈴をならす財布かな
麦秋の米櫃におく佛の燈
船旅の燈にマドンナと濃紫陽花
水浴に轟さしぬふくらはぎ
近山に奥嶺は梅雨の月盈ちぬ
地に草に秋風の吹く影法師
吾子に購ふ鉢鬼灯のゆれあへり
白樺にかなかな鳴きて大花壇
匙をめで重湯甘しと今朝の秋
草木瓜にかげろうたつや埴輪より
寒去りて古墳をあばく空の下
かげろふや上古の瓮の音きけば
初機のやまびこしるき奥嶺かな
みやま川連理の鳥に年たちぬ
春浅き燈を神農にたてまつる
はつかまどみづほのいひはしろかりき
ねこやなぎ草籠にして畔火ふむ
富士渡し姉妹の尼に浅き春
くにはらの水縦横に彼岸鐘
絨毯に手籠の猫子はなたれぬ
花祭みづやまの塔そびえたり
彼岸会の故山ふかまるところかな
梅ちりて蘭あをみたる山路かな
花菜かげ蝶こぼれては地にはねぬ
夜あらしのしづまる雲に飛燕みゆ