和歌と俳句

中村草田男

美田

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海苔干場けふ海苔のなき影しろじろ

冬の鳶父を勢はす木場娘

星は月の前衛後衛枯桜

老婆掃く己が足袋の上掃き勝ちに

くすぐるごとき哀歓の降り初めぬ

紅き実は滑らかいまだ雪積まず

折々や渦の真中に雪墜つる

面影迫りて祈るほかなし面打つ雪

我が死苦は重かれのみ清浄なる

詩作亦受恩の償ひ針供養

雪中梅雪にかくれぬ首花眼前

雪中梅雪中鶯も在り得たり

山葵田花咲き流るる女人の感動詞

伴れ犬にいつか躓く犬山開き

耕馬疲れぬ顔のみ大きな馬なれば

行きずりの初午末子へ加護祈る

セーラー姿もう今年だけ紫雲英

中年の麗女の多さ家ざくら

楽の音は花に安んじ火に躍る

はぢらひ顔の花の宵月人得つつ

松籟なき夜鳥の帰路や花と月

町角は白壁づくし花月夜

月が消す花の朱また灯が与ふ

花の月待ちしかに友即答す

麦生無量の端を仰ぎつつ切通し