和歌と俳句

中村草田男

美田

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夜も残暑パンク以上の音一つ

渋柿たわわスイッチ一つで楽湧くよ

かたき地がで滑るよ一茶の地

頬かむり柏原人眼を見合はず

倉床に塵紙敷いて霧に憩ふ

番傘小脇秋の遠足倉覗く

あまた蒔く種に打たれて埃浮く

颱風来の雲間に夕告雲赤し

この森や塒騒ぎへ虫時雨

日本近代史やうやく厚し冬の墓地

薊の刺火つかみしかに痛かりき

未知の犬夏芝はるばる来つつあり

兎の糞夏陽炎はみな筒太

浅間が叱し遠山応ふ日雷

雷つづく唐松の梢果てなければ

雷の後古街道とて鍛冶の音

更にはらはら吸はれ加わり渡り鳥

揚船の舷撫づる漁夫初日徐々と

荒海の果敷雲に初日の出

初日は昇り海は寄りくる音たからか

一点口にからし初日の汐飛沫

初日早や負う荷さへぬくめ初む

初御空古ることもなき海は語る

初空こそ時を剰すれ海真青

冬濤やくりかへしこそ世のまこと