中村草田男
万緑
冬芭蕉此家で貰ふ吾子の卵
落葉幾重嬉しき兵は上を向く
色なきも砂糖湯一杯松過ぎぬ
冬富士や背中かゆくて吾子恋し
教え児とかたまり撮る霜真白
冬夕焼過不及もなき笑ひ声
揃ひし笑応へし笑霧の日暮
寒煙をどこからでも立て屋根の波
冴え返る面魂は誰にありや
少年老いぬ芒の土手の制札よ
南天軒を抽けり詩人となりけり
横顔をこたつにのせて日本の母
梅に悼む大宮人の教え児を
教え児を悼むや星出で牡蠣を食べ
雪に征きぬ職員室の端戸より
縮れ毛を刈りペンを捨て雪に征きぬ
我を越えてはるか春野を指し居る人