和歌と俳句

加藤楸邨

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息白く子に書きおくること多し

犬の影犬に添ひゆく霜柱

餅ひとつふくれんとして爆音す

雪となる枯木の梢しづかなり

信濃より子のたより来し寒雀

霜柱ふみつつ子への初だより

松過ぎの鬚そらぬ顔ばかりかな

子へ遺す一寒生の霜の文字

松過ぎの豆を煎りをり母と子と

ふかくして息ふかし疑ふか

松の根に雪は息づくごとくなり

餅を手に立ちあがりをり爆音す

買ひためて信濃の子等へ胼薬

風邪薬のむいとまなく午過ぎぬ

外套の見ればほのかに月のいろ

冬服を脱ぐ夜脱がぬ夜耳とがり

水音のやうやく高し霜柱

火の中に入りゆく冬の雲一朶

枕辺や冬の月さす鉄兜

寒の崖日輪のゆきとどまらず

踏みて立つ冬木の根さへとどろけり

悴みて我を離れず影法師

大寒や君が負ひたる太柱

霜柱赤松の根が貫きぬ

死とは何ぞ焦土の石に美し