下萌ゆるもの焼柱影を置き
梅咲くと思ひゐて午過ぎにけり
梅匂ふ梅のわかれといふべしや
石だにもめざめは春の露のいろ
春燈に覆ひせよ目を遠くせよ
啓蟄の風さむけれど石は照り
髪焦げて教へ子は来ぬ緋桃抱き
相喚びて雪解の谷を出でにけむ
相おもふ母に爆音子に雪解
しづかなる梅の影さす焦土かな
満天に星と敵機や木の芽萌ゆ
啓蟄のゆふべや人はちりぢりに
表札の春寒かりしわが名かな
火襖にさくらはこぼれやまぬかな
啓蟄のひとの行方もまた焦土
鶯や焦土の果に人は立つ
ランタンを袖襖にす牡丹の芽
欅の芽空の南北わかれけり
目を張りて筍飯を食ひ終る
春の雷焦土やうやくめざめたり
かぞへゆく人の生死や春の雷
陽炎を負ひて家なき顔ばかり
椿よりひそかに思ふことひとつ
火の奥に牡丹崩るるさまを見つ
雲の峯八方焦土とはなりぬ
明易き欅にしるす生死かな