凩の吹き緊りたる顔に逢ふ
爆音やおもひつめたる目に枯葉
母を待つ子に枯櫟葉を降らす
凩や空に爆ぜゆく生御魂
時雨雲とざしかねたる星に逢ふ
雲出づる冬天の川見て無言
鰯雲小草が絮をとばすのみ
信濃路へ冬天の川ながれをり
鰯雲夜天の深さはかられず
ものいへば傷つくごとく冬の黙
笹鳴や日の出の何ぞなつかしき
冬青き北斗七星にみまもらる
鉄兜脱げば背に負うふ天の川
黙ふかく冬の夜汽車を誰れも聴く
書けばすぐ悴みつつも筆力
地に伏せし身のまはりみな霜柱
爆音の真下濛濛と雪ふれり
冬天を二三機過ぎて静かなり
胼の手に託すや遺書を信濃路へ
世に遠きことのごとしや鷦鷯
崖は立ち枯木は聳えわれは見る
悴みて相逢ひし顔思ひ出せず
霜夜そのふるさとびとを呼びて亡し
冬の玻璃闇を顔なき影はしる