一茎の百合の全力一蕾に
薔薇賞づる人は互に妨げず
鍬の柄土間に汗かき梅雨に入る
梅雨籠りして常のことを常のごと
日盛りや鋼光りに山の湖
虎杖の花に天上天下かな
尾ふれあひ互に驕る熱帯魚
雷除白髪の髷にさしつれて
夏山へ蒟蒻畑も上つてゆく
瀬々たぎち河鹿の声も遡る
渓の蛾は扇にとりて美しき
父のごと母のごと大夏木
海距て脚下に抉る蝉の谷
軒端よりただちに崇し青田富士
渡船待つ買物籠に莢豌豆
しづかにもひれふる恋や熱帯魚
夏の湖熔岩を沈めて渚なし
火の山の痂燻り砂礫灼く
避暑の荷を解きとりあへず籐枕
白緑の湖色を畏る梅天下
赤富士に鳥語一時にやむことあり
車前草が溺れて涼し夕立晴
一生の疲れのどつと籐椅子に
桟橋の断れて溺るる梅雨の湖
避暑の日は三日五日と経ち易し
灼くる中天上の雲天下の湖
道ばたに土蔵潰えて青胡桃
竹落葉舞ふにも鮠の群れは散る
青峡の中に一樹の枇杷の鈴
滴りのきらめき消ゆる虚空かな