和歌と俳句

梅雨

新娶まさをき梅雨の旅路かな 波郷

苫かけて北国船は梅雨に堪ふ 林火

梅雨の窓子が覗き去り妻の留守 楸邨

蒸す寄席に一夜のあそび梅雨に入る 友二

暫は止みてありしが梅雨の漏り 虚子

高浪もうつりて梅雨の掛け鏡 蛇笏

燈台に薄明の汐梅雨の暁 蛇笏

魚籃かつぐ天津の乙女梅雨げしき 蛇笏

ちちははをまくらべにして梅雨佛 蛇笏

骨壷をすゑて故山の梅雨明り 蛇笏

うつしゑの香がくりなる梅雨佛 蛇笏

梅雨くらし金色のこる墨の銘 秋櫻子

梅雨の戸をむげに男の子開けもして 汀女

老人の椅子に坐しゐる梅雨明り 杞陽

一人居の書を読みかへす梅雨ひと日 知世子

梅雨さむし数へて十にたらぬ鷄 占魚

梅雨見つめをればうしろに妻も立つ 林火

洋傘かしげ梅雨のひとかげ燈をよぎる 林火

梅雨はげし枕を胸にあてて読む 林火

梅雨けふも獄の大塀そそり立つ 不死男

梅雨深し濡れ太りゐる森の木木 たかし

妹と東京に逢う梅雨明るし 欣一

北の涯のその霧の夜につづく梅雨 楸邨

梅雨に入る八つ手の古葉焚きしより 万太郎

梅雨の宿一とすぢ川のみゆるかな 万太郎

になれたる欅のことに梅雨の園 万太郎

焼土を踏めば埒なくくぼむ梅雨 林火

焼トタン錆を流しつ梅雨つづく 林火

梅雨の土ひとを焼くべき薪を組む 林火

梅雨の家並わづかにゆけば焦土見ゆ 林火