和歌と俳句

松本たかし

人絶えて一円立てる茅の輪かな

鳥居ぬけ茅の輪くぐりて神の前

神前や一日茅の輪の浅みどり

蟹二つ食うて茅舎を哭しけり

我が三十六の夏の訃一つ

茅舎死後四日夏炉を焚きゐたり

するすると涙走りぬ籠枕

我が書きし祭行燈子ら破る

下闇や土よりつづく幹の苔

壁に唯切りし窓あり桑の家

木曽川のここら凡なり鮎かくる

雲深く恵那山の大ある昼寝かな

雲中の夏山の大思ひ見る

なつかしや木曽路の家の吊荵

片陰の宿へ入り来し木曽路かな

濯ぎ場に菖蒲洗へり明日節句

濯ぎ場のゆふべ濡れゐて桐の花

の咲く淵に小さき発電所

松蝉の地に落ち這へり松ひそか

松蝉の松の下草深き寺

はじめより緑陰にあり他へゆかず

昼顔やますぐな道のさびしさに

梅雨深し濡れ太りゐる森の木木

橋に添ひ温泉の樋かかれりほととぎす

滝の上に出て滝見えず青嵐