和歌と俳句

松本たかし

古家に蜘蛛が出そめて主人病む

睡蓮の花の汀に亭の階

青芒朝よりすでにいきれをり

木曾谷に友等相会ふ蝉涼し

山畑に向日葵咲きて山よ濃し

木曾谷を一洗したる夕立晴

諸枝の天に捧ぐる桐咲けり

新樹濃し一夜の旅に面やつれ

蔓ばらの垣が隔つる園の薔薇

松蝉や多摩の荒野も今は優し

連翹に継ぐ金雀枝の黄は強し

金雀枝の黄金鈍れば小神鳴

鋭さに切先き折れぬ青薄

山塞ぐ林泉狭みかも清水行く

山清水ひそめき辿る庭造

花樗夢かと淡く昼寝覚

むらさきの散れば色なき花樗

籐椅子の人の無言を吾も守る

息の如涼気通へる大藁屋

古町を見下ろし涼む城址より

飛騨盆地西日すずしく流れたり

霧粒のこもごも打てる糊卯木

乗鞍を踏まへて立てれど霧深し

行く霧を追ひ越す霧や山上湖

昼月を近く大きく雪渓

うつ伏して手囲ひ目守る黒百合を

雪渓を踏み荒らす群れ疲れ見つつ

乗鞍は凡そ七嶽霧月夜

雲海消え焼岳赫く瞰下ろされ

月に競ふ乗鞍の大穂高の嶮

青山へ青田の波の寄する村