古家に蜘蛛が出そめて主人病む
睡蓮の花の汀に亭の階
青芒朝よりすでにいきれをり
木曾谷に友等相会ふ蝉涼し
山畑に向日葵咲きて山よ濃し
木曾谷を一洗したる夕立晴
諸枝の天に捧ぐる桐咲けり
新樹濃し一夜の旅に面やつれ
蔓ばらの垣が隔つる園の薔薇
松蝉や多摩の荒野も今は優し
連翹に継ぐ金雀枝の黄は強し
金雀枝の黄金鈍れば小神鳴
鋭さに切先き折れぬ青薄
山塞ぐ林泉狭みかも清水行く
山清水ひそめき辿る庭造
花樗夢かと淡く昼寝覚
むらさきの散れば色なき花樗
籐椅子の人の無言を吾も守る
息の如涼気通へる大藁屋
古町を見下ろし涼む城址より
飛騨盆地西日すずしく流れたり
霧粒のこもごも打てる糊卯木
乗鞍を踏まへて立てれど霧深し
行く霧を追ひ越す霧や山上湖
昼月を近く大きく雪渓に
うつ伏して手囲ひ目守る黒百合を
雪渓を踏み荒らす群れ疲れ見つつ
乗鞍は凡そ七嶽霧月夜
雲海消え焼岳赫く瞰下ろされ
青山へ青田の波の寄する村