和歌と俳句

加藤知世子

1 2 3

泣くまじく寒木の嵐暮れかかる

真夜中に雉子叫びぬ倦怠期

馬の背の暮れんとしたる野分かな

夜の木枯壁に人の名書きつらね

白菊の白にすがりぬ手術前

冬の蛾を詩として命短かかり

餅食みつ不敵の笑ひ書を閉ざす

末の子の冬日の翳る家はなれず

春暁の戸の隙間より目覚めける

芽ぶく樹々大落日を捧げたり

春昼の繕ひ物にある幸か

初雷や揺がざるもの川の膚

初雷や夫の欠伸見てかなし

咲きあまるとなりて淋しかり

我が帯のやや弛みたる朝霞

子等の肩草がくるなど夏に入る

怒らねばわがくむ新茶すするのみ

一人居の書を読みかへす梅雨ひと日

子の日々に縫ひ遅れたる我が浴衣

玉虫や絵具には出ず母も子も

葛の花次第にかなし故郷のうた

野は朝焼蟷螂われに向きかふる

大槻や朝焼葉裏よりのぼる

歯の痛みとぎれとぎれの初ちちろ

元朝の髪結ひ上げて暖かし

バスや西日に手が荒れ初めてゐたりけり

戦や子に手ほどきの毛糸編

粉雪しきりや子等各各の夢がたり

昼を翳す指に日が透き紀元節

独りなり隣りし椅子に冬陽射す

風邪の床追想振子となりて消ゆ

松かさが目立ち来たれば春なりき

春昼の廚が暗くなりにけり

きて長男穂高骨太る

春の月あまりに白しふりかへる

初夏の月鉢の青蔦より湧きぬ

子等の答案みなよし浴衣きかへたり

シャボン玉父と子の眉一文字

峰幾重霧澱みゐる我家かな

こほろぎや母は昔の座のままに

茸狩や昔噺の雲の相

友の遺児吾子に似かよひ栗食みをり

片照りの槻や秋風かはりなし

朝寒の背に日を受けし別れかな

露葎仔猫ふたたび棄つまじく

戦報や忽ちせはし毛糸編

茶の花の戦といへど寂けさよ

落葉踏む仕立おろしの袷かな