和歌と俳句

毛糸編む

たそがるゝ戸口に立ちて毛糸編む 花蓑

船長は毛糸編みをり舟静か 立子

毛糸編む牀の愛猫ゆめうつつ 蛇笏

うそぶきて思春の乙女毛絲編む 蛇笏

編む毛絲稚子の電車に曳かれたり 波津女

昼はひとり夜は夫とゐて毛絲編む 波津女

柱廊が影曳く子無き毛糸編み 草田男

毛絲編む手をもて夫もみとるなり 波津女

戦や子に手ほどきの毛糸編 知世子

戦報や忽ちせはし毛糸編 知世子

毛糸編はじまり妻の黙はじまる 楸邨

毛糸編む紅のジャケツの子が紅を 占魚

いまは居ず暫く毛糸編みゐしが 占魚

毛絲編み夫は何編むかも知らず 波津女

愛情は泉のごとし毛絲編む 波津女

毛絲編み常に額に海の藍 波津女

若からぬ寡婦となりつつ毛糸編む 信子

離れて遠き吾子の形に毛糸編む 波郷

宿命とはいかなるものぞ毛絲編む 波津女

毛糸編むその背呼ばるる期待満ち 楸邨

毛糸編みつつ笑の揺れゐる肩 楸邨

金色に昏れるどこにも毛絲編み 静塔

白壁の消えも入らずに毛絲編み 静塔

海色や揚舟ゆする毛糸編む 不死男

毛糸編む君等は若ししあはせか 立子

毛糸玉遠きはさびし引きつ編む 汀女

返事してすぐには立たず毛糸編む 万太郎