和歌と俳句

平畑静塔

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雪の上微塵も濡れぬ枯木立

手さはりて砂の冬浜聖書よむ

石炭の早や跡形もなき日向

あさき箱弱れる箱の冬苺

大足の使徒となるかな足袋を脱ぐ

はすべてわが洗礼に降りくるか

雪片と耶蘇名ルカとを身に着けし

耶蘇名ルカ寒林響かせては名乗る

櫃を置く寒トラピストの大無言

幾曲り咳も遠ぞくトラピスト

乳房はなれて聖堂寒き床を這ふ

霜焼けの神父双手かしこに在り

金星やあらんかぎりの枯枝負ひ

大冬木浄きベッドに手を伸す

初霜越えて逃れにゆく祈りにゆく

金色に昏れるどこにも毛絲編み

木枯しや一礼しては赤子抱く

聖母の荷寒魚の黒き尾はみ出す

肩胛を割つて聖母が枯木負う

拳動かし背の子は寝ねず聖夜祈る

見据ゑ且つほほゑむ遺影除夜の壁

胡桃割る聖書の万の字をとざし

白壁の消えも入らずに毛絲編み

つつましき飛雪遊ぶや鉄格子