雪の上微塵も濡れぬ枯木立
手さはりて砂の冬浜聖書よむ
石炭の早や跡形もなき日向
あさき箱弱れる箱の冬苺
大足の使徒となるかな足袋を脱ぐ
雪はすべてわが洗礼に降りくるか
雪片と耶蘇名ルカとを身に着けし
耶蘇名ルカ寒林響かせては名乗る
櫃を置く寒トラピストの大無言
幾曲り咳も遠ぞくトラピスト
乳房はなれて聖堂寒き床を這ふ
霜焼けの神父双手かしこに在り
金星やあらんかぎりの枯枝負ひ
大冬木浄きベッドに手を伸す
初霜越えて逃れにゆく祈りにゆく
金色に昏れるどこにも毛絲編み
木枯しや一礼しては赤子抱く
聖母の荷寒魚の黒き尾はみ出す
肩胛を割つて聖母が枯木負う
拳動かし背の子は寝ねず聖夜祈る
見据ゑ且つほほゑむ遺影除夜の壁
胡桃割る聖書の万の字をとざし
白壁の消えも入らずに毛絲編み
つつましき飛雪遊ぶや鉄格子