和歌と俳句

平畑静塔

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雪の上鹿の蹄跡こきざみな

厦建つる夜の轟きに慈善鍋

大年の街を乙女は書を読みつ

冬天田村秋子は亡ぶるな

混血のソロ低くせり除夜の家

聖誕日旅人三鬼の髯伸びし

返り花俳人兵のことぎれし

諸共に俘虜の大禿年忘れ

四温の日あまねき国に医書残す

還る俘虜枯野八方の果てより来る

寒潮をまたぎ逐はるる国を離る

復員船寒夜二更に河口出づ

冬海へ光る肩章投げすてぬ

臨終か山の冬燈の寄り明るし

今より喪家鴨こもごも首洗ふ

冬の滝間髪近き岩濡らさず

鏡面に冬滝を去る顔残し

はつきりと寒潮汲みが汽車を見る

枯木星良心あつて寝衣着る

喰はれゐて雪片かぶる蜜柑の木

餅竃かへしに焦土此花区

妻と寝て除夜の畳のひろがれる

昇降機登り晦日そば黒し

籤すてて除夜の明又暗の道

斧を振る妻の膂力に除夜の星