平畑静塔
香墨にうすき黴あり丈山忌
真珠採る離れ小島の蝉旺ん
鯉洗ふ鉱夫に山は寂れたり
そのころの解剖の画帳曝しあり
門入りて嶮しき山やほととぎす
姫宮と襖さかひに鉾を観る
舟鉾の螺鈿の梶があらはれぬ
病囚の眼に夏山の峯の数
蛾の迷ふ白き楽譜をめくりゐる
万歳裡港湾に梅雨復り居り
軍医の手夏やはらかに今は徒手
万里より子へ還るべし紅蓮散る
俘虜貨車の日覆はためき迅走す
粥の座のきびしき顔の梅雨童子
夏草の中の膝にて校正す
門下とし伊勢の田植の中駛る
花菖蒲手にゆれ支線しづかなり
雷雲の高さ被告の妻として
大仏を見し後夏痩刻々と
夏一天みな軍人の名で立つ墓