和歌と俳句

平畑静塔

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ジェット機や五月赤潮田をかぎり

甍の濡れ一条黒し万緑

空裂きし声の口閉づ夏の鶴

下駄の足主婦は強けれ夏うぐひす

五尺の子蚊帳の月光抱へ寝し

雲の峯人煙細く触れにゆく

青田中くろき肋の長き息

延々と登るひとりや青田山

神父のどつと惜しげもなし場末

の際一個老醜の顔うかべ

形骸の旧三校を茂らしめ

草分の仕事蚊火立て目をつむる

早苗挿す早さ烈しさ身近さよ

牛はまだ寝る足折らず白夕顔

書架を負ふ子の世となりぬ白夕顔

姥が引く代田真水は甘からむ

黄麦の嵩を手長く抱きしめ

涼み椅子尼のかがやく足遊ぶ

尼の椅子かがやく足も涼むべし

青茂り北陸畦はゆがむもの

一本の道を微笑の金魚売

米とぐと森の祭は森に済み

早乙女の母を柱にのびあがる

蝙蝠を吹き出す爺ののど佛