平畑静塔
蝉とび出す緑の一目千本へ
弱木より動き吉野の青あらし
髪立ちてあらしの男麦刈れり
葉つばの子てんたう虫も祭の子
笠なしの田植おぼこが兄のかげ
石のひび蟻いさぎよく陥ちにけり
早起の帯なし農婦苺つむ
辛酒や村一番の蓮が咲き
赤紐の喇叭手に取り吹かぬ夏
太宰忌の支線岐れて郷に入る
筍を地下より招く父の鍬
祖母の智慧狭まりにけり梅雨の花
前うしろ竹のはらから竹落葉
蕗をむく椅子はきしみてかなしめり
見たくなき瞼はたゆく昼の木菟
お花畑花も霧中の神がくし
縦走の足がとまらぬお花畑
お花畑桂冠を編みたくなりぬ
病葉や芭蕉は道の花摘まず
日光衆笠着て田植伏しながら
ながらひて目も空蝉のさらしもの
青あらし白樺の葉も与したり