浦上や涙喜捨して泉湧く
桐咲きて茶山に花のいのちあり
籠明けて土間に一番茶のみどり
箕の上に新茶の形縮れさせ
菖蒲園くもりて能の足運び
祇園会に絵硝子欠けて窓ひらく
揺籃の時より鉾を見続けて
屋根方を乗せ月鉾の又びびる
夏祭献燈峠にて終る
祭幡涼し十年ひとむかし
荒神輿山は翠微の態をして
祭稚児顔を落してひきこもる
草の戸も揺らぐ源氏の鯉幟
水無月やつまむ染粉の臙脂虫
あやめ咲き雨読の父がよみがへる
万緑の隠さふ草鞋越えの道
青草を宥めて多佳子忌に坐る
空円か紺を五月の山着とし
青芒うすく指切る皇子の墓
国原に雷をまろばす皇子の墓
鉾ゆれて稚児人形も揺れる辞儀
骨として鉾をほぐせし紐の数
華胥の國五月蠅の一つ連れてゆく
自来也の出の待たるるよ夏芝居