和歌と俳句

除夜

わが家のいづこか除夜の釘をうつ 誓子

潮騒の寝をなさしめず年徂く夜 亞浪

除夜零時過ぎてこころの華やぐも 誓子

猫が鶏殺すを除夜の月照らす 三鬼

蝋涙の冷えゆく除夜の闇に寝る 三鬼

切らざりし二十の爪と除夜眠る 三鬼

妻と寝て除夜の畳のひろがれる 静塔

籤すてて除夜の明又暗の道 静塔

斧を振る妻の膂力に除夜の星 静塔

除夜の胸陥没部位は肋無し 波郷

除夜の妻ベッドの下にはや眠れり 波郷

故友亡きこと除夜時かけて肯ふも 波郷

月光の除夜の塵より何かつまむ 静塔

除夜浴身しやぼんの泡を流しやまず 多佳子

港内の太笛除夜の意を籠めて 誓子

見据ゑ且つほほゑむ遺影除夜の壁 静塔

除夜の月物干竿も赫々と 静塔

命守り夜目にしらじら除夜了る 静塔

この除夜の珍の月代立ちにけり 爽雨

更闌けてかがり瞬く除夜の爐火 蛇笏

うつくしき僧の娘二人除夜の爐に 蛇笏

眠らんと除夜の子が捲くオルゴール 波郷

闘魚たたかふ水美しき除夜の隅 不死男

見舞妻去りしより除夜いよよ急 波郷

きはまりの除夜や明星むらさきに 静塔

除夜の門に出でて一路の横たはる 爽雨