和歌と俳句

降りかけの雲慌し昼の蝉 亞浪

油蝉朴にうつりて鳴かざりき 普羅

永久に生きたし女の声と蝉の音と 草田男

蝉の午後妻子ひもじくわれも亦 草城

初蝉のこゑひとすぢにとほるなり 草城

人間の声をつらぬき蝉のこゑ 草城

蝉の声ひとすぢ起る朝まだき 草城

鳴きしざりつつ空蝉とならぶ蝉 三鬼

蝉なくや袖に射し入る夕薄日 信子

夕蝉や松の雫のいまも垂り 信子

茂吉
おほどかに春は逝かむと田沢湖の大森山ゆ蝉のこゑする

蝉涼し頬ばつてゐる郵書受 草城

諸蝉の鳴くにまかする昼寝呆け 草城

鳴きしぶりつつゐたる蝉鳴き徹る 草城

蝉しぐれ樹々は泉石かき抱き 林火

あほぞらへ蝉音放てり野の一樹 林火

蝉とんで火山灰地の灼けたる石 楸邨

茶もてき呉須磨りをれば蝉の天 楸邨

蝉啼き出づ起きぬけざまに水汲めば 

仮の世のひとまどろみや蝉涼し 虚子

蝉かなしベットにすがる子を見れば 波郷

師の来む日今日蝉の樹も凡に見ず 波郷

遮断機の前で握られ鳴く蝉よ 不死男

愛し得て立つや木移る蝉の声 不死男

さまざまの蝉の時雨や相模灘 石鼎

牛の声についで蝉の声夕簾 石鼎

山つみと山ひめの蝉時雨かな 石鼎

身に貯へん全山の蝉の声 三鬼

鳴き終る蝉声細部まできこゆ 波津女

わがそばに夜蝉を猫が啼かし啼かし 多佳子

啼きひび蝉を裸子より受けとる 多佳子