衣売りに炎天へ出る妻たのしげ
捉へては猫に啖はする黄金虫
蝉涼し頬ばつてゐる郵書受
いつぴきの蟻が来てゐる急いでゐる
急ぐ蟻直には来つつふと曲る
蟻を追ふ人間われの大きな手
蟻の死や指紋渦巻く指の上
蟻のいのち蟻を去り人間の飢餓
三伏の牛の肝臓を焼いて食ふ
満天の星涼しわが癒えつつあり
まどろみて正午を越えし大暑かな
諸蝉の鳴くにまかする昼寝呆け
鳴きしぶりつつゐたる蝉鳴き徹る
あかつきの四方のひそけさ水を打つ
仰臥して満面の汗無為の汗
現実の重囲の裡に昼寝覚む
剃りあとがあをあをとして無為の面
無為の眼が見てゐるインク壺とペン
長昼寝さめけり無為がまたはじまる
黒蝿が無為の胸板踏んづける