和歌と俳句

日野草城

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衣売りに炎天へ出る妻たのしげ

捉へては猫に啖はする黄金虫

涼し頬ばつてゐる郵書受

いつぴきのが来てゐる急いでゐる

急ぐ直には来つつふと曲る

を追ふ人間われの大きな手

の死や指紋渦巻く指の上

のいのち蟻を去り人間の飢餓

三伏の牛の肝臓を焼いて食ふ

満天の星涼しわが癒えつつあり

まどろみて正午を越えし大暑かな

諸蝉の鳴くにまかする昼寝呆け

鳴きしぶりつつゐたる鳴き徹る

あかつきの四方のひそけさ水を打つ

仰臥して満面の汗無為の

現実の重囲の裡に昼寝覚む

剃りあとがあをあをとして無為の面

無為の眼が見てゐるインク壺とペン

長昼寝さめけり無為がまたはじまる

黒蝿が無為の胸板踏んづける