和歌と俳句

日野草城

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薫風や友の佳き子を見つつたのし

かびの香やくちびる沈むひげの中

妻機嫌よき日は百合も匂ひ立つ

初蝉をきくや廚の妻を呼び

地震激したかぶる妻と子に抱かれ

緑の五月朝のそよ風メツォソプラノ

薔薇紅し水もコップも透明に

四つの花四方に開きてアマリリス

無伴奏チェロ麦秋の星月夜

笹百合は匂ひ濃し蕊しづかにて

朝蝉しぐれけふも炎ゆらむ空青く

溽暑し国会賢愚混沌と

ジェット機がキューンと低し仰臥の天

夕立田川たちまち興奮す

風邪引いてをり薫風をうとみけり

風邪引いて炬燵を愛す新緑裡

すずらんや昨日函館の野にありし

すずらんのりりりりりりと風に在り

雨蛙見ゆるがごとく鳴きにけり

出戻りの美人の散歩麦の秋

梅雨晴れ間すぐ曇り雀鳴き縺れ

古妻の遠まなざしや暑気中り

白粥のうす塩味や暑気中り

悪猫がのそのそ通る大旱

夕涼しちらりと妻のまるはだか