蠅叩き引きつけ夏を迎へけり
痩腕に打ち据ゑたりし蠅うごく
麦熟れぬギタートレモロ練習曲
妻の留守折から梅雨の大降に
夏蒲団ふわりとかかる骨の上
梅雨の夜の夢に故人と歓談す
佳き眼覚朝の虹立ち朝の楽
ながながと骨が臥ている油照り
病むひとの大暑のいのちかすれけり
生き得たる四十九年や胡瓜咲く
わが前の蒲焼の値を妻言はず
水枕して睡てばかり誕生日
老友が坐る土用の古畳
昼も臥て若き日遠し草茂る
日々にいのちを継ぎて夏を経ぬ
探しても妻の居らざる昼寝ざめ
鳴き明し昼は眠れり梅雨蛙
半世紀生き堪へにけり汗を拭く
瓜揉や名も無き民の五十年
宵闇に臥て金星に見まもらる
もの言はぬ猫と留守居の刻ながし
たのしけれメロン切る日を延ばしつつ
土用干いつ着るわれの服も干す