和歌と俳句

日野草城

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蠅叩き引きつけ夏を迎へけり

痩腕に打ち据ゑたりし蠅うごく

熟れぬギタートレモロ練習曲

妻の留守折から梅雨の大降に

夏蒲団ふわりとかかる骨の上

梅雨の夜の夢に故人と歓談す

佳き眼覚朝の虹立ち朝の楽

ながながと骨が臥ている油照り

病むひとの大暑のいのちかすれけり

生き得たる四十九年や胡瓜咲く

わが前の蒲焼の値を妻言はず

水枕して睡てばかり誕生日

老友が坐る土用の古畳

昼も臥て若き日遠し草茂る

日々にいのちを継ぎて夏を経ぬ

探しても妻の居らざる昼寝ざめ

鳴き明し昼は眠れり梅雨蛙

半世紀生き堪へにけりを拭く

揉や名も無き民の五十年

宵闇に臥て金星に見まもらる

もの言はぬ猫と留守居の刻ながし

たのしけれメロン切る日を延ばしつつ

土用干いつ着るわれの服も干す