和歌と俳句

日野草城

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君の手に牡丹の大き花一つ

そのほかのことは思はず牡丹見る

ぼうたんのひとつの花に満ち足らふ

ぼうたんのひとつの花を見尽さず

君去りて君のごとくに牡丹あり

ぼうたんの老くるがごとく老けたまへ

ぼうたんのいのちのきはとみゆるなり

ぼうたんのあな散らふはらはらはらと

牡丹観る仰臥の顔を傾けて

わが顔と牡丹の顔と真向かへる

見てゐたる牡丹の花にさはりけり

照る若葉閑臥の視野にみなぎれり

いちはつや親にやさしく古娘

牡丹見に相携へて老姉妹

枕べにリラのにほへる夏の闇

鳴つてゐる夜明の時計露涼し

病むひとのわくらばを手にしたるかな

花過ぎし牡丹の繁葉雨風に

朝の雨あらくて夏に入りにけり

宵の初夏近きひとごゑ遠蛙

五月いま午前の新樹道雄の琴

白南風や立ち去る妻の足の裏

ルノアール赤くゆたかに若葉雨

母の日の妻より高き娘かな

鮮らしき匂ひ豌豆むけるなり