君の手に牡丹の大き花一つ
そのほかのことは思はず牡丹見る
ぼうたんのひとつの花に満ち足らふ
ぼうたんのひとつの花を見尽さず
君去りて君のごとくに牡丹あり
ぼうたんの老くるがごとく老けたまへ
ぼうたんのいのちのきはとみゆるなり
ぼうたんのあな散らふはらはらはらと
牡丹観る仰臥の顔を傾けて
わが顔と牡丹の顔と真向かへる
見てゐたる牡丹の花にさはりけり
照る若葉閑臥の視野にみなぎれり
いちはつや親にやさしく古娘
牡丹見に相携へて老姉妹
枕べにリラのにほへる夏の闇
鳴つてゐる夜明の時計露涼し
病むひとのわくらばを手にしたるかな
花過ぎし牡丹の繁葉雨風に
朝の雨あらくて夏に入りにけり
宵の初夏近きひとごゑ遠蛙
五月いま午前の新樹道雄の琴
白南風や立ち去る妻の足の裏
ルノアール赤くゆたかに若葉雨
母の日の妻より高き娘かな
鮮らしき匂ひ豌豆むけるなり