和歌と俳句

青空や今日はじめての蝉の声 石鼎

午下の蝉拭へるごとき空となりぬ 石鼎

青空の日に日につづき蝉時雨 石鼎

あるあした書屋の柱蝉這うて 青邨

声あげて蝉夕風にさからひぬ 汀女

蝉の昼多幸ならんか便り絶ゆ 節子

哀げに覚束なくも蝉鳴けり 石鼎

吹く風の暑き真昼や蝉時雨 石鼎

黄昏れてなほ蝉時雨つづきけり 石鼎

厨にて笑ひ声する蝉時雨 石鼎

夕晴れて鏡の如し蝉時雨 石鼎

鎌倉の遺構存置す蝉の寺 たかし

萬力の起す一石蝉時雨 たかし

葉風よりはげしき蝉音衣透りぬ 節子

初蝉をきくや廚の妻を呼び 草城

やわらかき蝉生れきて岩つかむ 三鬼

国の勢ひは山々へ退き蝉の寺 草田男

蝉声や全裸の山の樹にこもる 静塔

世に古るは一峡一寺蝉のこゑ 蛇笏

蝉わめく山々や世は揺れ移る 草田男

蝉しぐれ庇の下を通い路に 林火

芭蕉葉にひたとひた鳴く蝉のあり 爽雨

いと低き幹にも蝉や蝉時雨 風生

高原の枯樹を離れざる蝉よ 三鬼