和歌と俳句

富安風生

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箒もて池水を掃く五月晴

みちのくの早苗短き萌黄かな

夏菊の黄はかたくなに美しき

御扉のにやふれし旅の袖

清閑になれて堆書裡夏来る

はやばやと更へし衣にたすきがけ

善良に公園の薔薇を見て帰る

籐椅子のつくろひあるはゆかしくて

天つ日のふとかげりたるかな

山門に早乙女憩ひ高匂驪寺

漬茄子舐めて遊ぶ子花魁草

芍薬にはねたる泥の乾きゐる

話寄り話しわかれて草取女

むすび喰むベンチの老に薔薇遠し

少女らは薔薇も素通り楽しさう

写生してゐる牡丹に風かすか

傷心をつつむ衣を更へにけり

草に咲くあやめかなしく旅遠し

百合消えてなほうら山の夏つづく

大らかに孕み返しぬ夏のれん

麦の穂のそろふ景色の文机

夕顔の一つの花に夫婦かな

夕顔に浮世話は灯さず

塩噴きしひね梅干を珍重す

梅干してあたりにものの影のなき