和歌と俳句

篠田悌二郎

蝉絶えてもの音急に遠くなりぬ

鈴虫も嗄れて視界の虫も消ゆ

新凉の青松ぼくり筆硯

椅子傾け秋深き夜の海渡る

秋暁の波朱に染めつ礁暗し

硝子戸に雲多き日や秋の蜂

幼き日見し秋天をけふ仰ぐ

生死興亡秋展望台ただ回る

龍王を祀りし寺も紅葉どき

此岸より拝む紅葉の九体仏

楓紅葉瑠璃光世界現ぜしむ

稲架つづく岩船寺道辿るなり

稲架の道尽きてありける岩船寺

秋うららバス車掌より柿貰ふ

初鴨や次第に見えて沖の点

砂丘より青はたはたが海へとぶ

船暈に誰かかはらず鱸舟

巣箱落ちのこる松虫草あはし

五十鈴川すこし遡ればくづれ簗

紅葉して目白のうたも寂びにけり

蜂どもと露のいちじく奪ひあふ

夜々を霧子らいつとなく距たりゆく

秋暁の大青富士の仰がるる

富士失せて後ただ霧の唐辛子