白河やさ霧の中の町ならび
更けし夜の湯壺にひゞく添水かな
名無し茸阿武隈川に抛つたり
虫売りや昼の荷に鳴くきりぎりす
月待つと暫く舟をながしけり
流燈の相ふれたればたゆたへる
鶏頭や畳に蟻を見ずなりぬ
塵塚に萌ゆるものあり秋の風
栗拾ふ媼に逢ひぬ山浅く
波立ちて流るゝごとし秋の沼
映りゐる田舟の閼伽の鰯雲
向きあうておなじ燈籠草の宿
はからずも蜩鳴ける門火かな
まつ白に道つらぬけり虫の闇
草山のそらはあかるし虫の声
河原湯は湛へあふれて櫨もみぢ
谷霧に鷹かも舞へり一羽ならず
魂むかへ門の雑草穂に立ちぬ
三つほどの栗の重さを袂にす
鱒の腹秋日透りてま青なる
はたはたのをりをり飛べる野のひかり
はたはたのかそけき音の夕まぐれ
しら菊の傘にあまれば霑れにけり