和歌と俳句

篠田悌二郎

越も毛も霧に涵れり夕芒

栃の実や泉が濡らす岨の道

関址は役宅残る百日紅

外人墓地浄く荒れをり秋の蝉

地にぢかのクルス傾く文字摺草

秋の蜥蜴寝墓にあをく走り消ゆ

けふ山に来て残蝉の声もなし

秋海棠霧ふかきより羽音たつ

夜の濃霧死ぬものなべて請えはなき

星もなき山端あかりに穂の芒

瞋るときありて朝日の葉鶏頭

白馬ゐて秋晴の馬柵影を生む

栗鹿毛を少女責めをり草の花

茸干す旧街道をさらにそれ

卓に色褪せをり朝の照紅葉

ひびく野に忘れられ薬師堂

草紅葉信濃夢殿失せてなき

八角重塔双輪高しひびく

稲架の奥けふ立ち加ふ喪の花輪

白桔梗いくたび重ねまた蕾む

雁来紅昔の沼の景消えて

芙蓉咲きにぶき光の沼の端

朱をふふむきのふなかりし曼珠沙華

みんみんの声秋苑を乱すなし

白萩のみだれも月の夜々経たる