冬紅葉もしなかりせば沼の景
真菰伏し湧水かくす冬目高
岸の一羽羽うつにさめず浮寝鴨
身じろぎもせず群遠く一羽鴨
庇ひあひ傷つけあひし蓮枯れぬ
平穏に事多かりし年詰る
寒暁の遠きもの音夢さらふ
寒鯉のゆたかに澄めり眼のくばり
寒鯉の鰭うごかすやまっしぐら
髪の香や遠き雪嶺懐ひゐつ
顔あたる度に創つき冬ふかし
年は逝く平穏死後にありあらじ
海の岩沈み漂ひ霙降る
冬の雲さすがに冨士を犯すなし
大瀬崎過ぐるや宙に雪の冨士
憂ひなき浮寝鴨にはこよなき日
思ひ寝と見しが動かぬ鴨は病む
剽軽な小鴨つられて羽搏ち翔つ
歪みなき冬田の畦を冨士の前
並び枯れ黒檜山にも見劣らず
萱全山枯れて死木の下に帰す
枯れ切れず畦に菫の咲くありて
埼あれば小漁港秘め冬椿
さいごかも知れず妻との冬湯旅