篠田悌二郎
雪溟き咫尺より波くづれ来る
山上湖氷らんとして波さわぐ
寒椿落ちたるほかに塵もなし
水仙の一つの花に霜除す
柴漬をあげて夕日によろめける
雪に獲したなごぞ雪のにほふなる
晴雪へ瑠璃なすわれの影法師
雪あかり最上の鮒を炉にあぶる
林中の浄さに入るを雪拒む
身を以て霜に近づくおもひかな
寒厳し薔薇とても刺ぎすます
あはれとも言はず冬蜂掃きおろす
雪捨てて波もたたまず信濃川
水餅をさも深きより掬ひ出す
芦は枯れ追ひ来る雪に沼の瑠璃
冬の夜の万象睡る外にをり
寒夜覚め昼来し鶲おもひをり
冬の水荒く糶あと浄めをり
落葉以後藤棚は星棲むところ
シャツ赤く来しが枯葉に鞭鳴らす