秋耕や富士をさへぎる山もなく 秋櫻子
牧水
夜には降り 昼に晴れつつ 富士が嶺の 高嶺の深雪 かがやけるかも
牧水
冬の日の 凪めづらしみ すがれ野に うち出でて来て あふぐ富士が嶺
牧水
天地の こころあらはに あらはれて 輝けるかも 富士の高嶺は
初富士を隠さうべしや深庇 青畝
栗の花うごけば晴れぬ窓の富士 久女
雲海の夕富士あかし帆の上に 久女
茂吉
いつしかも 相模のくにの 秀に立ちて かげともに見む 富士のたかねは
茂吉
富士がねに 屯する雲は あやしかも 甲斐がねうづみ うごけるらしも
茂吉
大きくも くすしき山の 富士がねを 雪消て青き ときに見にける
茂吉
箱根きて 長尾峠の ひとときは 青富士がねに 雲いでそめつ
茂吉
いつくしき さまにもあるか 富士がねに 雲はこごりて 靡くともなし
茂吉
むらさきに 晴れわたりたる 富士がねを この国の秀に 見むとおもへや
雲井なる富士八朔の紫紺かな 蛇笏
一條の煤煙のもと皐月富士 汀女
大和より国原つゞき小春富士 かな女
冬の富士昼さむくして飢いたる 楸邨
初富士に突当れとか切通 青畝
秋ちかくいつしか富士へ入る日かな 石鼎
雲海の彼岸の富士や今日あけつつ 草田男
冬天の黒き金魚に富士とほく 赤黄男
元日の出る日も富士へしづむ日も 石鼎
初富士の真白の雪に襞も見え 石鼎
窓にそむく月の夏富士出でて仰ぐ 草田男
富士を見終へて炎日もゆる窓へ立つ 石鼎
富士を北へへだりつつ夏の夕日かな 石鼎
冬の富士日星おほらかに又きびし 蛇笏
冬富士や背中かゆくて吾子恋し 草田男
富士現れてハンケチさへも秋の影 草田男
秋富士のかなた病友文を待つ 草田男
秋富士は朝父夕母の如し 草田男
秋の富士日輪の座はしづまりぬ 蛇笏
不二澄めりくぬぎ林は野に枯れて 秋櫻子
初富士の海より立てり峠越 秋櫻子