実桑もぐ乙女の朱唇恋知らず
旅に出て病むこともなし栗の花
栗の花うごけば晴れぬ窓の富士
栗の花そよげば箱根天霧らし
雲海の夕富士あかし帆の上に
ヨツト見る白樺かげの椅子涼し
草の名もきかず佇み苑の夏
苔庭をはくこともあり梅みのる
漕ぎ出でて倒富士見えず水馬
栗の花紙縒の如し雨雫
母屋から運ぶ夕餉や栗の花
上宮は雨もよひなり柿の花
谿水を担ひ登ればほととぎす
絶壁に擬宝珠咲きむれ岩襖
よぢ登る上宮道のほととぎす
筆とりて肩いたみなし著莪の花
汚れゐる手にふれさせずセルの膝
葵つむ法親王の屋敷趾
天碧し青葉若葉の高嶺づたひ
六助の碑に恋もなし笹粽
杉の月仏法僧と三声づつ
若葉濃し雨後の散歩の快し
杉くらし仏法僧を目のあたり
疑ふな神の真榊風薫る
病快し雨後の散歩の若葉かげ